認知症の方の声かけ例

認知症の症状

認知症の症状のある方への声かけの方法で、基本的に知っておきたいことや具体的な声かけ例、実際の事例を考えながら、どのような声かけが症状を悪化させないのかをみていきましょう。

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介護の基本は声かけにある

介護の基本は、声かけにあるといってもいいほどです。
声かけがなぜ必要なのかを見ていきましょう。

認知症の方が介護を受けるとき

私たちが病院で注射をされるとき、看護師さんは一つ一つを丁寧に声かけしてくれます。
「腕を出してください」「消毒しますね」「少しチクッとしますよ」「ここをよく揉んでくださいね」といった声かけをされます。
動作の都度、声をかけられて次に何があるのか、どうなるかを予想します。

認知症のある方の声かけも同様です。
次の行動を知らせるために声かけするのですが、認知症の方は、記憶が曖昧であるために次に起こることを予想しづらくなっています。

次に起こることの予想がつかないと、当然のことですが不安になります。

不安をなくす声かけ

認知症の方に不安を持たせないためには、どうしたらよいのでしょう。

私たちが注射をされても不安にならないのは、看護師さんが医療知識を持っているからです。
信頼しているから、不安にはなりません。
医療知識のない人に注射をされるとしたら、不安でいっぱいになります。

このことでわかるように、信頼している人に不安を抱かないのは、認知症の方も同様なのです。

行動をすすめるための声かけ

入浴や排泄・食事など声かけは、さまざまな場面で行われます。

入浴の時間になったから「お風呂に入りましょう」と声かけした場合、次の行動に予測ができる方は、すんなり浴室へ向かうでしょう。

しかし、そうでない方の場合、突然声をかけられてスムーズに入浴できるとは限りません。

「お風呂」という言葉を理解できなかったりすると、浴室に入ったとたんに「助けて~」「殺される~」という叫び声が聞こえてくることになります。

認知症介護の『基本的な声かけの仕方』

ゆっくりと短く話しかける

老化による難聴がある場合は、耳元でゆっくりと話しかけるのが基本です。
聞こえているけれどハッキリと聞こえなかったり、違う言葉に聞こえることもあります。

言葉の理解が難しい方には、短い言葉で声をかけましょう。
一つの言葉が理解できているかを確かめるためには、一呼吸おいて返答や反応を待ちます。
何かアクションがあったら、次の声かけにすすみましょう。

目の高さで話しかける

相手の目線に合わせた位置で、話しかける必要があります。
それは「これからあなたに話しかけますよ」という予測を、つけてもらうためです。

目線を合わせることで、相手の表情を確認することができます。
認知症の方が、しっかりと介護者の目を見ているようなら、聞き入れる準備ができています。

「何見てんだ!」と怒り出す方もいれば、ニッコリと笑いかける方もいますが、どちらの場合も介護者を見て反応しています。
苛立っている場合は、ニッコリとほほ笑み落ち着くまで様子を見ましょう。

否定しないで話しかける

認知症の方に否定しない、叱らないは、やはり基本です。

今がわからなくなっていると不安になりますから、何度も同じことを聞いて安心しようとします。
そんなときに、「さっきも言った!」「何回もおんなじこと言わないで!」と介護者が返答することで、さらに不安になってしまいます。

今がわからないということは、今なにをしたらいいのか分からない、ということでもあります。
または、今と違う状況にいると思い込んでいることもあります。

認知症の方も、なにかが変だと思いながらも、安心できる状況をつくるために必死なのです。
そのような状況にいるのだということを、受け入れていきましょう。

具体的な声かけ例

入浴の声かけ例

言葉が理解できている

「お風呂」という言葉を理解しているときは

  • 「今日は一番風呂です」
  • 「温泉に入りましょう」
  • 「お風呂券をもらいましたよ」

「今日は特別です」といった声かけをして、楽しんでもらえるような声かけをしてみましょう。

言葉が理解できていない

お風呂道具を持って声かけする方法もあります。

洗面器にタオルや石鹸を入れて渡します。
言葉を理解できていなくても、風呂用具を持つことで、これから何をするのか予測できることもあります。

また、浴室に案内して風呂場の様子を見ていただくことで、「お風呂」という言葉を思い出すことがあります。

感情に問いかける

「お風呂」という言葉の声かけが難しいときは

  • 「サッパリしに行きましょう」
  • 「スッキリしに行きましょう」
  • 「気持ちよくなりますよ」

というように、感情に問いかける声かけで納得できることもあります。

言葉を変える

「お風呂」という言葉を使わずに声かけする

  • 「明日は病院の先生が来ますよ。体を洗っておきましょう」
  • 「お出かけしますから、頭を洗っておきましょう」

外出や病院という言葉では、きれいに身支度するということが関連づけられている方もいますので効果的です。

放置すると悪化する

認知症の症状の現れ方はさまざまです。
何度も同じ話を繰り返したり、逆に話さなくなったり、時には暴力や暴言といった症状を見せることもあります。

対応が難しくなったからと一人にしてしまうと、考える・思い出すなどの機能はいっそう使われなくなり、症状はさらに悪化してしまいます。

入浴の声かけ事例

認知症の症状が進み、暴言や暴力が激しくなっていた80歳代の女性の方がいました。
入浴は、服を脱ぐ段階で「殺される~」と叫び続け、介護者の体を叩いたりつねったりします。
日中は傾眠することが多く、夜間に覚醒する時間が長くなっています。

この方の入浴前に、声かけをしてみました。
「お姉さんのお名前は、なんとおっしゃるんですか?」
「お父さんは厳しい人ですか?」
「お母さんはやさしい人ですか?」といったように、ご家族の話で声かけしてみました。

このような声かけを10分程した後の入浴は、叫ぶこともなく暴力をふるうこともありませんでした。
このときの会話に、「お風呂に入る」という声かけは行っていません。
ご家族のことを回想することで、安心を得られたのでしょう。

ジェスチャーやスキンシップ

赤ちゃんが母親にやさしく抱かれているとき、人は安心と安らぎを感じるものです。
しかし、年齢を重ねれば重ねるほど、スキンシップをとることが少なくなるものです。

バリデーションという意思の伝達方法がありますが、ジェスチャーやスキンシップで交流を可能にします。

認知症の方で言葉の意思疎通が難しくなったときでも、微笑む、触れることで気持ちを伝え、ジェスチャーで話しかけることで、交流することができます。

さいごに

認知症の方に声をかける場合は、さまざま目的があるものです。
生活の支援をするために、介護者側の○○したいが目的となっていることが多いでしょう。

しかし、症状を悪化させないための「声かけ」も必要です。
コミュニケーションをとろうとすると、難しいかもしれませんが、短くても機会を多く持って声をかけることができれば、症状を維持・改善できると信じたいです。

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