高齢者の方は、排泄の間隔が短くなることを気にして、水分をとらないという選択をします。また、認知症になると食欲の減退とともに、水分の摂取を嫌がられるようになります。認知症の進行を食い止めるために、必要と言われる水分。介護士が利用者さんに飲んでいただくために、工夫するポイントを見ていきます。
認知症で水分をとらない
高齢者は水分を摂りたがらないわよね。
そもそも、水分の必要量ってどれくらいなのかしら。
水分をとらないことでどんなデメリットがある?
高齢者の必要水分量はどれくらい?
高齢者の必要な水分量は、体重1Kgに対しておおよそ40mlを目安にするとよいと言われています。
体重40Kg の利用者さんですと、一日に1600mlが必要になり食事以外の水分摂取を1000ml以上を目安にしています。
成人の体内水分量が60%程度であるのに対し、高齢者は約50%です。体内に水分を溜めておけなくなるために、すぐに脱水症状を引き起こします。
高齢者が水分をとらないとどうなる
「高齢者の脱水症状が恐ろしい」と思った、訪問介護をしていた時の事例をご紹介します。
当時、90歳女性の介護でご自宅に伺っていました。
ご主人は92歳、とても元気な方でよく畑仕事をされていたのです。
夏の炎天下でも、畑仕事を休むことなく続けられていました。
そんなある日、脱水症状で入院され、あっという間に帰らぬ人となったのです。
あの時から、高齢者の『脱水は恐ろしい』と思うようになりました。
水分の摂取が認知症の方に必要なワケ
体内の水分量が少ないと血液がドロドロになり、脳の血管にも影響を与えます。
脳血管の血流が悪いことで、脳のあちこちに炎症を起こすのです。
血流が悪いことで、アミロイドβと呼ばれるたんぱく質が排出されずにいると、脳にたまったアミロイドβは脳細胞を傷つけ死滅させてしまいます。
細胞が死滅することで、脳の萎縮がはじまり認知症を発症すると言われています。
ですから、水分の減少が脳細胞を傷つけて、認知症の発症や進行を加速させてしまうのです。
水分の種類で工夫する
私たち介護士が、水分摂取で工夫していることをご紹介しますね。
水分をすすめる選択肢を増やす
食事以外で水分を提供する場合の、飲み物を考えてみます。
- お茶(緑茶・番茶・ほうじ茶・昆布茶など)
- 紅茶(ハーブティー・ミルクティーなど)
- コーヒー(カフェオレ・ウインナーコーヒーなど)
- スポーツドリング・オロナミンC
- ジュース(炭酸・果汁など)
たくさんの種類がありますが、水分を摂りたがらない方のおすすめは、塩水です。
100mlの水に一つまみの塩を混ぜるだけ。
氷を入れて提供すると、スプーン1杯程度の量ですが、少しずつ飲むことができます。
一日に500mlがやっと摂取できていた利用者さんが、倍の量を飲むことが出来ました。
そして、あまり話すことが少なくなっていましたが、塩水をすすめるようになってから、言葉の数が増えました。
「あんたきれいだね!」と介護士に言ったりするなど、感情の表現も増えていました。
多すぎる塩分は良くありませんから、飲めるようになったら他のものに切り替えましょう。
ミントなどを紅茶に入れると、寝つきがよくなるそうです。
水分の形状を変える
飲み込みが悪い場合に、水分を摂りたがらなくなることがあります。
一般にトロミを付けて提供することが多いのですが、トロミを付けるとなお飲まなくなってしまう方もいます。
そこで、水分の形を変えて工夫をするのも方法です。
- ゼリー飲料
- 寒天類(牛乳寒天・お茶寒天・水羊羹など)
- シャーベット
- プリン・ヨーグルト・卵豆腐・果物
糖分が多めなので頻繁には出せませんが、ゼリー飲料は適量を飲んでいただくことができ、飲み口がチュウブなので飲みやすいです。
シャーベットは、牛乳などに砂糖を加え固めるだけでできるので簡単です。
冷たい物は、口の中を刺激するのか覚醒状態がよくなり、吐き出さずに飲み込んでいただけます。
利用者の方が好んで飲んでいるゼリー飲料
環境を変えて水分摂取を工夫する
水分をたらないときには、水分の種類を変えたり形状を変えるのね。
他に工夫出来ることってあるかしら?
食器を変えたり、出すタイミングを変える方法もありますよ。
メラミン食器だけじゃ つまらない
プラスチックで作られたメラミン食器は、壊れにくいため介護施設でも多く使われます。
瀬戸物より軽いので、力のない高齢者の方に向いています。
しかし、毎日使うせいか見た目に刺激がありません。
お誕生日などの行事では、オシャレな器を使うことをおすすめします。
『お茶会』と称して、抹茶碗を使ったことがありました。
介護士たちが持ち寄った茶碗に、抹茶と牛乳と砂糖を入れ、茶せんでまぜて『お茶会』気分です。
いつもは一杯の牛乳を飲むのに、30分もかかる利用者さんが、あっという間に飲み干していました。
水分を出すタイミング
介護施設では、朝茶・朝食・10時・昼食・3時・夕食などに水分の提供をするところが多いと思います。
しかし、一杯のカップに150~200mlの水分を入れて出しても、なかなか飲み切れないようです。
「飲めない方には少しずつ回数を増やして提供しよう。」ということになりました。
台所のカウンターに、50mlのスポーツ飲料やお茶が入ったコップが並べられます。
定時以外にいつでも、飲んでいただけるようにしました。
利用者さんがカウンターに来て、選んでいただきたかったのですが、どなたも取りにきません。
なので、介護士が気が付いたときに、利用者さんに渡すようにしました。
ソファーに座っているときに手渡すと、コップの置き場所に困るのか、すぐに飲み切っていただけました。
量が少なかったのも、良かったのでしょう。
洗い物が多くなりましたが、介護士が思いついた時に、すぐに提供できたので水分量は増えました。
まとめ
高齢者の方は、気付かないうちに喉の渇きを感じなくなっていたり、夜間のトイレが嫌で水分を控える方もいます。
しかし、若いころと違い筋肉量が減少すると、水分を体に溜めておくことが出来ません。
ですから、高齢者や認知症の方には、水分摂取は重要な課題です。
具体的に水分をとらないときには
・水分の種類・形状を変える
・食器・出すタイミングを変える
手間はかかりますが、工夫次第で改善が可能です。
具合が悪くなった状態では、最悪の事態も起こるので注意していきましょう。
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