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認知症『帰宅願望』介護士の対応体験談

考え込む老人認知症の症状
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認知症の帰宅願望に悩む介護者は、多いと思います。当人はもちろん、悲壮な思いで日々を過ごさなければなりませんが、家族や介護をする私たちにとっても、悩める症状です。その体験談を見てみましょう。

認知症の「帰宅願望」と言っても、人によりその症状は、千差万別なのは言うまでもありません。
以下にお一人の事例を紹介させていただきます。

何度も同じ話を繰り返すAさん

帰宅願望のあるAさんについて

  • 昭和5年生まれ(現在93歳) 女性
  • 身長150㎝程度、体系はふくよか
  • 老人性難聴(右耳はほぼ聞こえない)
  • 既往歴、疾病:老人性難聴・緑内障・高血圧等
  • 20年間、公務員として勤め60歳で定年
  • 夫:死亡 息子:2人(次男と同居)
  • アルツハイマー認知症(軽度~中程度)
  • 要介護1

Aさんの症状が何年前からのものかは不明です。
家事全般は、同居の息子様がされていました。

症状が出るようになりデーサービスを利用していましたが
難聴のため、コミュニケーションがとれず、徐々に利用が少なくなります。

ご家庭では、新聞を読んだりテレビを見て過ごされる毎日。

何度も同じ話を、息子様に繰り返し聞くことが多くなり
尿意はあるものの、失禁することもしばしば・・。

このような状況でAさんは、介護付きの有料老人ホームに入所されました。

入所当時は携帯電話の操作も出来ていた

暑い中での入所でした。


介護をする息子様は、持病の悪化や体調の不良があるための施設入所であり、
息子様も、Aさんに十分な説明をされています。

入所についてAさんは、一旦は納得するものの直ぐに記憶は薄れ忘れてしまいます。
命綱のように携帯電話を握りしめ、施設から何度も息子様に電話をしていました。

遠方に住む長男、入退院を繰り返す次男。
そんな中でも、ご家族の面会は頻回に行われていたのです。

それでも、面会があった日の夕方は、ことの他寂しさが募るようで
電話をかける回数が、さらに増えていたようです。

帰宅願望に隠された不安

このような毎日が、1ヶ月を過ぎる頃。

たまにあった失禁は、毎日のようになりました。

頻回に面接に来られていた次男様が入院され
Aさんが電話をしても、着信を拒否されるようになります。

夕方から夜間になると、不安がつのり「ここはどこなんですか」
「息子に電話しても出ないんです」と、
5分も経たずに施設職員に尋ねるようになりました。

息子様が電話に出られない事情も説明していますが
記憶には留めておけないようです。

帰宅願望による行動で起こる危険

2か月が過ぎる頃

「家に帰りたい」そんな思いで、Aさんは荷造りを始めます。
入所の時に、衣類を入れてきた大きなクリアケースに
所持品を詰め込んで、そのケースを移動させます。

「この荷物をどうやって、家まで運んだらいいでしょう」
「息子は車がありません」
「そういえば、帰るためのお金が一銭もないんです」

このような話を、日に何度も何度もされています。

90歳のAさんにとって、所持品の入ったケースはかなりの重量です。
そのケースを押しながら、自室からフロアのカウンターまで運んでいた時・・

転倒して、身体側面を強打してしまいました。

骨折は免れましたが、2週間ほど肋骨に痛みが残りました。

短期記憶が薄れても時間の間隔があるのか?

入所3ヶ月が過ぎる頃、Aさんは携帯電話の操作が出来なくなっています。

電話を掛けても、契約が解約されていて、着信することさえできません。

夕飯を食べている最中にも、「家族に電話してください」と訴えられます。

同居していたご家族は、時に息子様であったり、実家の弟様だったりし始めました。

その頃のAさんの悩みは、今自分の宿泊しているところの料金です。

「ここに、長く泊まっているようだけど、料金はどうなっているんでしょう」
「1泊はいくらなんですか」
「お金がかかるから長くはいられないんです」

施設に慣れてきて生まれた悩みです。

帰宅願望の焦り・不安・寂しさ

現在、Aさんは入所4か月目を迎えています。

携帯電話が操作できなくなったこと
失禁が増えたこと
家族の状況が混乱し始めていることなど

様々な症状が出現しています。

Aさんがある日もらしていた話です。

「だんだんわからなくなる、頭がおかしいんだ」
「治らないんだろうか」
「あんなに人の世話をしてきたのに、自分が世話されるなんて」

その言葉には、口惜しさと悲しさと寂しさが入り混じっていました。

帰宅願望で介護者は何ができるのか

認知症の症状は、改善が難しいと言われています。
介護するものとしては、悪化を遅らせるしか手立てはありません。

ご本人の不安や寂しさを解消する
ご本人の安心できる環境を作る

テキスト的にはこのような方法がとられるわけですが
一つてして同じ方法で対応できるわけではありません。

そして、お金を頂くプロの私たち介護士でさえも
時に苛立ちを隠せなくなる時もあります。
ご家族であれば、なおさらのことです。

認知症状の帰宅願望

Aさんの帰宅願望は、今も続いています。

Aさん:「家に帰りたいんです」「家族に電話してください」
介護士:「ここにいるのは、嫌ですか?」
Aさん:「嫌じゃないよ。でもね、残り幾ばくも無いはずだから戻りたいの」
介護士:「寂しいですよね。・・」「わかりました。明日迎えに来てもらうように連絡しますね」

私は毎日、大嘘をついています。そんな予定は一切なのに・・。

Aさん:「ここの宿代は、どうなっていますか?」
介護士:「ここは、前払いですから、息子さんから既にいただいていますよ」
Aさん:「息子が払っているの?1泊いくらですか?」
介護士:「1泊は1000円くらいですよ。食事が豪華でお風呂も温泉の所はもっと高いですけど・・。」
Aさん:「いいの、息子にそんな迷惑かけられないから」

そんなはずはありませんので、また嘘をつきます。

毎晩、同じような会話を何度もします。
そして、Aさんは「明日息子が迎えに来てくれる」と、安心できた時にやっと床に入ります。


認知症の症状の対応に、正解はないと思っています。
適切か不適切かも、分からなくなる時があります。
でも・・
また、新たな訴えがあれば、最適と思える嘘をつく・・
明日に希望が持てるような嘘を。

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