立位が難しい方の入浴介助
認知症の方で立位が難しい場合、個浴での入浴は無理なのでしょうか。安全に入浴していただくための準備や声かけで、入浴が可能なケースをご紹介します。
ご本人の状態を確認する
どの程度立っていられるか
手すりにつかまったり、支えられて30秒程立っていることが可能な方であれば、個浴での入浴が可能です。
入浴で危険な場面は、浴槽をまたぐ動作です。何とか立つことが出来ても、浴槽をまたぐ時には片足になります。
浴槽の淵に座りスライドさせるバスボードを、使用するのもよい方法でし、バスチェアーを浴槽の縁において、片足ずつ浴槽に入れていただき浴槽内で立ち上がる方法もあります。
また、介助者が2人いると、介助者の一人が浴槽内に入ることで、安定して浴槽に入ることが出来ます。
いずれにしても20~30秒程の間、立位が保てる状態ならば個浴での入浴は可能となります。
ご本人に入浴の意思があるか
大切なのは、入浴するご本人に入浴の意思があるか否かです。認知症が進行すると、入浴の意向を確かめることが難しくなりますが、そのような時は、強い拒否があるか否かで判断できます。
入浴の拒否がある場合に、無理に入浴を強制してしまうと、転倒などの事故につながりやすいため、入浴したくなる声かけをしてみます。
船乗りだった認知症の男性が、「風呂なんか入られてなくっても死なない」と拒否されていましたが、介護士が「明日はお出かけですよ。きれいな女性がいるらしいです。お風呂に入って、身支度したらモテますよ」と誘ったそうです。
ご自宅ではなかなか入っていただけず、デイサービスを利用して入浴を試みるところでしたが、介護士の機転のきいた声かけで、入浴が可能になりました。
入浴の声かけで多いものに「さっぱりしますよ」というものがありますが、「さっぱりする」というのは入浴した後の気持ちであって、入浴しようという動機付けには、少しインパクトが弱いのかもしれません。
立位30秒で出来ること
立ち上がりに役立つタオル
立位が難しい場合は、立ち上がりも困難といえます。手すりにつかまり、少し足を引いた状態で前屈みの姿勢をとりますが、腰を上げにくい時は、シャワーチェアーに座る前に、椅子にフェイスタオルをかけておきます。
介護者がお尻を持ち上げるのではなく、フェイスタオルの両端を持ち上げると、滑らずに腰を上げる動作を支援でします。このとき、これから立ち上がることの声掛けや「1・2・3」などの掛け声をかけるとよいです。
「1・2・3」と掛け声をかけるとき、動作の予測がつくようにフェイスタオルをもって少しだけ持ち上げると、利用者の方に予測が付きやすくなります。
浴槽手すりを使ってみる
立位が難しくなると、浴槽内に手すりを設置することが多いと思います。しかし、立位30秒程度の状態ですと、ひとつの手すりでは不十分と言えます。浴槽の淵に取り付ける手すりがありますから、こちらも併用すると便利です。
介護士は立ち上がろうとする利用者の方の後方で、いつでも支えられるように準備します。
手すりにつかまって足を上げても、足先が浴槽まで上がらないと入浴できません。その場合、介護士が足上げを支援しますが、介護士が屈んで足上げを介助すると、利用者の方を支えきれないこともあります。
もう一人介護士に援助してもらえるのが一番安全です。それが難しい場合は、後方で支援している介護士の足背で、利用者さんの足底を持ち上げます。利用者さんの足がほとんど上がらない場合はできませんが、もう少しの状態ならば有効です。
入浴は上がる時の方が難しい
浴槽台を使ってみる
浴槽に入っているのは5分~10分程度に留めましょう。浴槽に入るための動作だけでも体力を消耗していますから、長湯をすると疲労がたまり立ち上がれなくなります。
このような状態の方の場合は、浴槽台を浴槽内に入れておき椅子として利用します。半身浴の状態で肩までの入浴にはなりませんが、肩にタオルをかけてかけ湯をするだけでも、体を温めることが出来ます。
立ち上がれなくなってしまったら
浴槽台を使うと立ち上がりが容易にできるものですが、難しい場合は応援を呼ぶのが一番安全です。応援を呼べない状態ならば、浴槽の湯を抜いてしまいます。水圧を無くすことで、立ち上がりが可能になります。
まとめ
立つのが難しい・立っていられない、だから入浴は無理と考えてしまう前に、2人介助の方法や一人でもできる工夫を考えましょう。
シャワー浴でも十分に清潔を保てます。浴槽に入ることにこだわる必要はありませんが、立つのが難しい状態でも入浴できる利用者さんは、体の保温ができますので声掛けしてみてください。
「あ~気持ちよかった」と言っていただけるよう、安全に介助しましょう。