「ご飯はまだか!」
認知症の主な症状に記憶障害があります。物忘れは食べた献立の内容を忘れますが、認知症の場合は食べたこと自体を忘れます。今回は30分前に食べたことを忘れてしまう80歳代の男性のおはなしです。
一人では区別できない
厚生労働省によって、2004年「痴呆」という言葉が「認知症」という言葉に置き換えられました。困った老人たちは、今やりっぱな病名を頂くことになります。情報も豊富な時代になり、困ったときには本やテレビ、ネットなどで調べることができるようになりました。
「物忘れと認知症と何が違うの?」と聞かれることがあります。情報量が多くなっても、身近にその状況がなければ、詳しく知ろとは思わないものなのですね。
こんな時は、食事の例をよく出しますが、食べたこと自体を忘れた場合、それに気付くのは周囲の人たちです。「今食べたばっかりなのに・・」とその異変に気付きます。一人暮らしの場合は、食べたこと自体を忘れるので、発見が遅くなってしまいます。
「ご飯はまだか!」
彼がグループホームに入居して、1年ほど経過したころです。体操の時間に、見本と同じ動作ができなくなり、しりとりをしても単語が思い出せなくなっていました。
昼食を済ませた彼は、いつものようにソファーでくつろいでいました。おもむろに立ち上がって、職員に近寄り「まだ、ご飯にならないのかい?」と言うのです。
申し送りで内容を聞いた時『ついに来た!』という感じでしたが、対応した職員は、経験の浅い職員だったためか、「今、食べましたよ」と言って対応したようです。
いつもは穏やかな性格の男性ですが、「食べてない!」「ご飯はまだか!」と怒鳴ったそうです。
常備されたクラッカー
この報告がされたので、彼専用の低カロリークラッカーが用意されました。その後にも同じような訴えがあり、お茶とクラッカーを出す対応がされます。
クラッカーを食べ終わると満足するのか、またいつもの彼に戻ります。
穏和な性格で目立った症状がないため、職員たちも日ごろ、特別に対応することはありません。しかし、徐々に認知の症状は進行しています。
認知症対応型のグループホーム
特別な取り組みをするなら、進行はもっと緩やかになるかもしれませんが、今のところ後付けの対応になってしまっています。
取り組みを増やそうと言う意欲的な職員もいますが、職員は新人からベテランまでいます。ベテラン職員と同じ対応が新人職員にできるかと言うと、難しいものがあります。
しかし「できない」では、何もはじまりませんから、話をする時間を少しでも増やす工夫から始めたいと思います。