認知症の人に不安はモレナクついてくる 見当識障害からの不安

認知症の症状

「いつ」「どこ」「だれ」がわからなくなる見当識障害は、認知症の方の中核的な症状で大変な不安を伴います。必ずあると言える見当識障害に、取り組んだ事例を交えて、見当識障害のご本人の不安と対応策をご紹介します。

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認知症の不安「いつ」「どこ」「だれ」がわからない

自分の置かれている状況を把握することを『見当識』と言います。

具体的には、「いつ」「どこ」「だれ」がわかることで日常生活を問題なく過ごすことができます。

しかし、これらが曖昧になると自分の置かれている状況がわからなくなり、不安が一層強くなります。

認知症の場合一般に、「いつ(時間)」「どこ(場所)」「だれ(人)」の順番で分からなくなると言われています。

「いつ」がわからない不安

「いつ」である時間を把握するためには、「今の時間」「今の曜日」「今の月」「今の季節や年」を、理解している必要があります。

そして、自分の状況を知るためには「自分の歳」「自分の誕生日」を知っている必要があります。

今の時間がわからなくなる

人は今の時間を知って、生活のサイクルを認識します。

しかし、認知症になると時計があるのに時間がわからなくなります。

それは、針の位置で時間を読み取ることが出来なくなるからです。

時計があるのに「今何時?」と聞くのはそのためです。

時間を聞くようになったら、デジタルの時計を用意しましょう。

針の位置で時間を読み取ることが難しくなっても、数字であれば読み取ることができるときもあります。

今の曜日がわからなくなる

認知症の初期の段階の方で、とても曜日を気にかける方がいます。

「今日は何曜日?」と何度も聞くので、なぜ気になるかを伺うと「土曜と日曜はみんな(家族)が休みだからね」「誰か来るかと思って・・」

この方は、介護施設に入居されている方なので「休みになると家族が来るかもしれない」と面会を楽しみにしています。

施設には大きなカレンダーが見えるところにあるのですが、それでも「今日は何曜日?」と尋ねます。

曜日を聞くようになったら、聞かれるたびに答えましょう。

1週間の大まかなスケジュールが理解できています。

徐々に月や季節がわからなくなる

時間や曜日がわからなくなると、次第に月や季節がわからなくなります。

「いつ」がわかるということは、温度設定をされている室内にいても、外の景色、テレビや新聞の情報、または会話の中で「今」を認識できているということになります。

今の季節を尋ねることは、日常的には殆ど無いと思います。

生活の中でも、「今の季節は何ですか?」と聞くことは滅多にありませんね。

いろいろな情報を自分の中に取り入れることが出来るから、今の季節がわかるのではないでしょうか。

「桜が咲いたよ、春だね」「雪がふってるよ、冬だね」と声をかけていきましょう。

自分の歳は忘れるけれど生年月日は覚えていられる

年を重ねていくと、年齢は曖昧になります。

自分の年齢を意識するのは、書類の記述が多いものですが、高齢になるとそういった手続きはご家族が代行することが多くなります。

意識する機会が少ないためか、認知症の初期の段階では2.3歳の誤差はよくあります。

しかし、自分の生年月日は、認知症が進行している段階でも案外保たれています。

戦争後、民法改正に伴う戸籍法改正で、生年月日はより正確にデーターとして収められていますが、戦前に生まれた方は、生まれた日と届け出の日が違う場合もあります。

『どこ』がわからない不安

認知症の初期の段階では、外出して「自宅に戻ること」が出来なくなることが増えます。

「どこ」といった今自分がいる場所がわからなくなると、認知症の症状は進行していると言えます。

はじめの段階では、自宅とその他(病院や施設)の区別がついています。

病院や施設にいるとき、「ここはどこなんだ?」と尋ねていたら自宅とその他の場所の区別がついています。

しかし、「なぜ自分がここにいるのか」がわからず不安になります。

さらに症状が進行していくと、自分の家にいてもそこが自分の家であることがわからなくなります。

自分の家にいて「それでは帰ります」と言われるときほど、家族としては悲しいことはありませんが、認知症の方の今はそこにはないと言うことになります。

認知症が進行した段階では、自室やトイレの場所がわからなくなっていきます。

『だれ』がわからなくなる

最終的には、ご家族のことがわからなくなります。

「見覚えのある人」「優しくしてくれる人」となり、家族の名前やその関係がわからなくなります。

認知症の人の不安はハンパではない

財布や大事なものが見つからないんだよ。買い物に行けば、同じものばっかり買ってくるし・・・。どうしちゃったんだろう。

おばあちゃん、「わかんなくなった」って言うことが多くなったわ。

認知症の初期の段階では、自分の物忘れや生活上の失敗に気付くことが出来ます。

例えば

  • 話に「あれ」「それ」が増える
  • 料理をして塩と砂糖を間違える
  • お金の計算が出来なくなる
  • 約束を忘れる など

今まで出来ていたことが難しくなり、能力の低下について心配します。

そして、「さらに悪化してしまうのではないか」と不安を抱くようになります。

認知症の症状は、体験したことを丸ごと忘れてしまいます。

人に会ったことを忘れる、食べたことを忘れるなどです。

物忘れと認知症の症状に大きな違いはありますが、「忘れる」という部分は共通しています。

人は「忘れる」ことで、どのような「不安」を抱くようになるのでしょうか。

認知症の人の気持ちは『寂しさ』から『不安』になる

「いつ」「どこ」「だれ」の見当識に障害が出てくると、認知症の方の不安は頭から離れなくなります。

特に、「いつ」「どこ」がわからないときが、ご本人にとって不安がより大きいように思います。

頻繁に人に会って会話することで脳が活性化して見当識が少しずつ回復することもあります。  「有料老人ホーム検索 探しっくす」のページより

記憶は回復しないと思っていましたので、この文章を呼んだときは衝撃でした。

可能性はゼロではないのですね。

「助けて!」の不安を変化させる

人は自分ではどうにもならない不安があるとき、誰かに助けて欲しいと思うものだと思います。

不安が安心に変わっていくとき、認知症の方はどのように変化するのでしょう。

「助けて!」って言う利用者さんがいるんです。どうしたかって聞くと「何でもないとか、口癖です」って答えるんです。日に何度も助けを求めるんですけど、どうしたらいいでしょう。

不安なのかもしれないわね。認知症になって出来ないことやわからないことが増えると、とても不安になるみたいなの

上記の会話は介護施設で実際にある内容です。

利用者のAさんは、「助けて!」を日に何度も言う方です。

「助けて!」という言葉は、「もう終わりだ!」「死んでしまいたい」と徐々に変化していきました。

「殺してください!」と言葉が変化してしまい対応を模索しました。

Aさんは「早くお父さんのところへ行きたい」と他界したご主人のところへ行きたいと、話すようになりました。

かなり過激な方法ではありましたが、不安が改善しているので対応をご紹介します。

出来ないことは断る

「殺してください!」と言う助けに対しては、ハッキリとお断りしました。

「Aさんのことは大切に思っているけれど、私は犯罪者にはなれません」と。

この言葉にAさんは、「そうようね」と答えています。

人は必ず死を迎えることを伝える

それに続けて「心配しないで、人は必ず死ぬのですから」と伝えました。

そして、「その時が来るまで一緒に頑張りましょう」と繋げました。

ここまでは、正直あまり効果がありませんでした。

少しの間は不安はないようでしたが、すぐに助けを求める状態に変わりありません。

「令和」の年号が希望になる

新年号が報道され、よいアイディアが浮かびました。

助けて!助けてください!

Aさん、お父さん(ご主人)にお土産を持って行きませんか

お土産って・・・

天国には物を持って行けないから、言葉を持って行くのはどうですか

お父さんが知らないこと。新しい年号をお土産にしてはどうでしょう。皇太子さまが天皇に即位されるんですよ。

年号が新しくなるの?何て言うの?

この日からAさんは「助けて!」と言わなくなりました。

Aさんに合った目標ができたのかもしれません。

介護士をつかまえては、「何て言うの、あれ、何て言うの」と尋ねます。

答えてもらえた時は感謝する

記憶は体調の良し悪しにも影響するのでしょうか。

「令和」と答えられるときもありますし、全く難しい時もあります。

答えられたときは、介護士の感情が伝わるようにオーバー過ぎるくらいに感謝しました。

そして、「令和」と答えられたときは、実際に感動するくらいの驚きがありました。

答えられたときはご自分もうれしい

感謝の気持ちを伝えるとAさんは、口角を少し上げて笑顔になっていました。

「すぐ忘れるよ」とAさんが言うときは、

「大丈夫、その時はまた年号を伝えていいですか?」と聞いてみると

「よろしくお願いね」とまた笑顔があります。

寄り添うことの大切さ

この事例はどの方にも効果があるとは言えません。

ご本人の生活や性格なども考慮しての対応でした。

「寄り添う」ということは、その方によっていろいろな方法があるのだと思います。

その後、Aさんは「令和」の年号を答えられるときもあれば、難しいときもある状態が続いています。

しかし、新しいことを覚えようとしなかったAさんに少し変化があります。

介護士に「あなたの名前は何て言うの」と尋ねるようになりました。

「頻繁に人に会って会話することで脳が活性化して見当識が少しずつ回復することもあります。」

会話をすること、寄り添うことが、認知症の不安の症状のある方には、とても大切なのだと思うようになりました。

さいごに

認知症の中核症状である、見当識障害は「いつ」「どこ」「だれ」がわからなくなる症状です。

「忘れる」という症状を完全になくすことは、難しいかもしれません。

しかし、寄り添うことで、脳を活性化することが出来るなら回復はゼロではないと思いたいです。

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